1751LAB 企画開発研究所

PROJECT

1×1=∞ 伝統工芸から先端技術、原料から製品まで、LABとのコラボによる化学反応を目指した企画に取り組んでいます。人と人との想いもコラボしたスペシャルプロジェクトです。

辨柄の起源

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 辨柄色という色をご存知でしょうか。深い赤褐色の色で、日本の色名にもなっています。表記には、弁柄、紅柄、紅殻、榜葛刺もあり、「べにがら」とも読まれます。辨柄自体は、酸化第二鉄を主成分とする無機赤色顔料の一種です。奈良時代に、インドのベンガル地方の赤い土から作られた顔料が伝来し、それを産地の名から辨柄と言ったのが語源とされています。
 ラスコーやアルタミラの洞窟壁画にもみられ、旧石器時代から使われた最古の顔料です。日本でも、縄文土器から、漆の椀、化粧品、家屋や神社の鳥居、仏閣の彩に使われてきました。日本の生活の中で、古くから大変なじみのある色の一つです。
 また、経年変化に強く、日光による褪色がないことも特徴で、船舶の錆止めに使われ、防虫、 防腐の機能性も持っています。昨今では、無害なことから、天然顔料としても注目されています。

吹屋の歴史

吹屋の歴史 イメージ

 岡山県の県北の山間にある備中吹屋は、日本ではじめて辨柄の人工製造に成功した場所です。吹屋にある吉岡銅山から採掘された、磁硫鉄鉱が原料になったのです。
 銅山の歴史は古く、大同2年(802年)に発見された後、開発が進み、明治6年(1873年)には、岩崎彌太郎が買収し、近代的な技術を導入して、日本三大銅山にまで発展させました。最盛期には1600人以上の従業員がいました。
 銅山では、銅の原料となる黄銅鉱の採掘が行われていましたが、黄銅鉱と一緒に、鉄の硫化鉱物である磁硫鉄鉱もとれていました。子供が家の手伝いで、黄銅鉱と磁硫鉄鉱の分別をしていたと言うように、当初、磁硫鉄鉱は副産物で利用価値のない捨石でした。
 1707年(宝永4年)、磁硫鉄鉱より得られる緑礬(ローハ)を原料とした良質の辨柄製造法が発見されました。諸説ありますが、火鉢で緑礬を焼いていたものをふと外に投げ捨てたところ、色が真っ赤に変化したことで、偶然発見されたといいます。1751年には、緑礬の人工的製造に成功し、その後大正時代に至るまで、世にいわゆる「吹屋辨柄」として隆盛を極めました。特に江戸時代後期からはベンガラの生産で大きな富を蓄積し、吹屋の往来沿道には、辨柄窯元の商家が連なる独特の町並みが形成されました。

吹屋辨柄

吹屋辨柄 イメージ1

 辨柄の原料となる緑礬は、磁硫化鉄鉱を焼き、水に溶かし煮詰めた後、冷却析出させて作ります。この段階では、緑色の結晶体で、粒も砂利程度の大きさです。
 この緑礬を天日でよく乾燥させた後、土窯の中で700℃位の火力で1~2日焼きます。焼いたものを、大きな水槽にいれて水とかきまぜ、粗い粒子と細かい粒子を沈殿の差で分けていきます。何度も繰り返すことで、細かい粒子だけ残し、さらに石臼で挽きます。
 そして、含まれている酸分をぬくため水槽にきれいな水を入れてかきまぜる方法を数10回から100回位繰り返して酸をぬきます。最後に天日で乾燥させ、粒子の細かな辨柄を得ます。
 吹屋の辨柄は高級で、建造物の塗装だけでなく、伊万里焼や九谷焼といった陶磁器の着色や、輪島の漆器の下塗り、朱肉や染料にも使われるなど、全国へ販路が広がりました。
 現在では、硫酸鉄を原料に使い、機械的に製造される安価な工業辨柄が主流となり、昭和49 年にこの地での製造は終わりました。

吹屋辨柄 イメージ2

 しかし、手間隙かけて作られた吹屋の辨柄の赤は、工業辨柄では再現できない赤として、今でも陶芸家が探し求めにくるほど重宝される特別な辨柄です。これは、半手作業で作られることで、粒子の大きさが不均一となり、色に深みが生まれるからだと言われます。
 また、辨柄で栄えた吹屋の街並みは、現在も当時のまま保存されており、辨柄で塗られた柱や窓格子、屋根には石州瓦とよばれる辨柄色の瓦が使われ、歳月の経過が色に落ち着きを与えています。特に夕日を浴びた吹屋の街は、赤一色で包まれ、最も美しい瞬間になります。

辨柄染×1751 LAB

辨柄染×1751 LAB イメージ

 吹屋の街並みに魅せられて、辨柄を使った生地染めに挑戦している染工所が、岡山県の児島にあります。辨柄は、顔料の中でも粒子が大きく、生地に付着させることが困難です。この染工所では、溶剤の配合を試行錯誤して、濃色の辨柄染を可能にしています。
 今回1751LABとのものづくりでは、顔料染めのメリットを活かして、多様な組成の生地、先染めの生地へのオーバーダイに取り組みました。粒子が大きい分、染めムラがでやすいことを利用して、深みのあるムラ染めができます。
 辨柄は、酸化具合によって色が変わり、工業的には赤・黒・黄の辨柄が製造されています。これらを混ぜ合わせることで、新しい色を作ることも可能です。
 また、初めての取り組みとして、辨柄の先染めを行いました。中白で、ムラのある染糸で、吹屋の街に見られる辨柄格子や海鼠壁、石州瓦の連なりをイメージした柄を表現しました。
生地を通して、辨柄の文化と日本の伝統色に触れ、改めて日本の良さの一端を感じて頂ければ幸いです。そして、かつての吹屋辨柄のように世界へ辨柄染生地が広まってゆくことを願っております。